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東京地方裁判所 昭和43年(行ウ)180号 判決

東京都新宿区西新宿一丁目一八番一六号

原告

新東京土地株式会社

右代表者代表取締役

野村十郎

右訴訟代理人弁護士

天野亮一

東京都新宿区柏木三丁目三一二番地

被告

淀橋税務署長

神田清人

右指定代理人

森脇勝

石塚重夫

伊藤勇

中川精二

磯喜義

石川新

右当事者間の所得税更正決定取消請求事件につき当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の申立

一、原告

(一)  被告が原告の昭和三九年一月三〇日から同年一〇月三一日までの事業年度分の法人税につき昭和四二年六月三〇日付でした所得金額四一、一四六円、法人税額一三、五〇〇円とする更正処分を取消す。

(二)  被告が原告の昭和三九年一一月一日から昭和四〇年一〇月三一日までの事業年度分の法人税につき昭和四二年六月三〇日付でした所得金額二、二六六、七九七円、法人税額七〇二、四〇〇円とする更正処分を取消す。

(三)  被告が原告の昭和四〇年一一月一日から昭和四一年一〇月三一日までの事業年度分の法人税につき昭和四二年六月三〇日付でした所得金額三、五六〇、七六五円、法人税額一、〇八六、六〇〇円とする更正処分のうち所得金額二九七、三八〇円を超える部分を取消す。

(四)  訴訟費用は被告の負担とする。

二、被告 主文と同旨。

第二、原告の請求原因

一、原告は被告に対し昭和三九年一月三〇日から同年一〇月三一日まで(以下昭和三九年度という。)、昭和三九年一一月一日から昭和四〇年一〇月三一日まで(以下昭和四〇年度という。)および昭和四〇年一一月一日から昭和四一年一〇月三一日まで(以下昭和四一年度という。)の各事業年度分の法人税につき所得額ゼロとして確定申告をしたところ、被告は昭和四二年六月三〇日付をもつて前示申立記載の各更正処分をした。

そこで、原告は右各年度の各更正処分につき同年七月二七日付で被告に対し異議の申立をしたが、被告は同年一〇月二五日これを棄却したので、原告はさらに同年一一月一七日東京国税局長に対し審査請求をしたが、これも昭和四三年八月五日付で棄却された。

二、しかしながら、原告は昭和三九年度においては欠損額が七二三、二五四円、同じく昭和四〇年度においても欠損額が一、九九〇、七四一円であり、昭和四一年度においては課税所得が二九七、三八〇円に過ぎなかつたので、これを超える本件各更正処分はいずれも違法であり、その取消しを求める。

第三、被告の答弁と主張

一、請求原因一項は認め、二項は争う。

二、本件各更正処分の根拠は次のとおりである。

(一)  被告は本件各更正処分において、左記の加算または減算をした。

1 昭和三九年度

申告所得金額(欠損) 七二三、二五四円

認定利息収入加算 七六四、四〇〇円

差引更正所得金額 四一、一四六円

法人税額 一三、五〇〇円

2 昭和四〇年度

申告所得金額(欠損) 四、八一七、八八一円

(加算)

認定利息収入 九四六、一五〇円

減価償却超過額 七、四〇〇円

損金計上役員賞与否認 四〇、〇〇〇円

圧縮損否認 二、五八九、六〇〇円

土地価格計上もれ 二、五八一、六〇〇円

支払仲介料否認 二〇〇、〇〇〇円

特定公共用地買収損金算入否認 三、三〇三、九八八円

(減算)

未払事業税(前年度の右記所得に対するもの) 二、四六〇円

建物価格 二、五八一、六〇〇円

差引更正所得金額 二、二六六、七九七円

法人税額 七〇二、四〇〇円

3 昭和四一年度

申告所得金額 〇円

(加算)

認定利息収入 二五三、三三〇円

減価償却超過額 二一、三六五円

賃貸料収入 三七、〇〇〇円

仕入諸掛否認 八三五、〇〇〇円

繰越欠損金控除額否認 二、五七三、〇七〇円

(減算)

未払事業税(前年度の右記所得に対するもの) 一五九、〇〇〇円

差引更正所得金額 三、五六〇、七六五円

法人税額 一、〇八六、六〇〇円

(二)  前記貸付金利息の認定根拠について述べると、原告会社の取締役増永昌平(個人)は、昭和三四年一一月二日、東京都千代田区四番町四番地の八に所在する宅地五三八・八四平方メートル(一六三・二五坪)を他より買入れるに際し、野村十郎から一〇、〇〇〇、〇〇〇円を借用したが、昭和三九年二月一日原告より同金額を借用して野村十郎に返済し、原告に対しては右債権担保として前記土地につき抵当権を設定した。その後、増永は同土地を野村十郎の妻はるに売却し、昭和四〇年一一月一日七、〇〇〇、〇〇〇円、昭和四一年九月一日三、〇〇〇、〇〇〇円をそれぞれ原告に返済した。

もつとも、原告と増永間の契約書(甲第一号証)によれば、原告は前記土地上にビルを建設することができ、その着工まで右一〇、〇〇〇、〇〇〇円は貸付金とし、工事開始と同時に保証金に切替える旨の条項(同契約書一項の(二))が認められるが、当時既に同土地につき佐藤義光名義の借地権登記が存在し、鏑木他二名がこれを使用、占有していて、原告が借受ける可能性はなかつた。

また、同契約書一項の(三)によると、同契約により生ずる増永の損害を原告が負担し、これと原告の利息債権とを相殺するので、相互に支払関係はないものとする旨の条項があることが認められるが、原告において現実に右土地の引渡しを受けていない以上、右契約のため増永が損失を被ることはありえない。

そこで、被告は、以上の事実に基づき、原告が増永に提供した一〇、〇〇〇、〇〇〇円は貸付金であると認め、その利息として昭和三九年度に七六四、四〇〇円、昭和四〇年度に九四六、一五〇円、昭和四一年度に二五三、三三〇円をそれぞれ認定した。

(三)  昭和四〇年度における特定公共用地買収損金算入の否認の点について

1 原告は、昭和三九年一二月一六日菊田静枝より東京都新宿区角筈三丁目一六六番地の三の土地と建物を買受けたのち、昭和四〇年三月四日東京都にこれを公共事業用地として買収され、同月一七日その旨の所有権移転登記を完了したことにつき、租税特別措置法六五条の三が適用されるものとして、昭和四〇年度の決算において右代金額一三、六〇三、九八八円よりその取得価格一〇、三〇〇、〇〇〇円を控除した三、三〇三、九八八円を損金に算入した。

2 しかしながら、同法条の規定は、譲渡資産が旧法人税法(昭和四〇年度法律第三四号による改正前のもの)九条の七の一項に規定するたな卸資産に該当するものにつきその適用を除外しているところ、次の理由により、右土地建物は原告にとつてまさにそのたな卸資産と目すべきものである。すなわち、

(ア) 右土地建物の所在は昭和三五年六月一五日建設省告示一、一三三号および昭和三七年六月一九日同告示一、四二一号による事業計画決定ずみの地域内であり、原告が同物件を取得した当時、不動産業者なら誰しもそのことを知つていた筈であり、特に原告は前主の菊田より前記土地建物が東京都より買収されることを聞いてそのことを承知していた。

(イ) 昭和三九年九月ころ東京都の係員に対し原告会社のものが右土地建物を早く買収するよう申入れてきた事実がある。

(ウ) 原告は、前記建物を昭和三九年一二月一六日に買得後何ら事業用に供することなく、僅か一週間後の同月二三日に野村はるに売却している。

(四)  原告は、昭和四〇年五月一日大野正子から東京都新宿区花園町三九番地所在の土地建物を価格一三、二〇〇、〇〇〇円で買受け、帳簿上の価額を土地につき三、二〇〇、〇〇〇円、建物につき一〇、〇〇〇、〇〇〇円と計上したうえ、右建物の減価償却費を昭和四〇年度分六五、七六〇円、昭和四一年度分二五二、七八一円として処理した。しかし、土地と建物を一括取得した場合においてそれぞれの価額が不明のときは、全体の価額をその取得時における土地および建物の取引価額の比率によつて按分してこれを決定するのが相当である。そして、原告の右取得額は、売主において換金を急ぐ余り、通常の取引価額を相当下廻つていたと認められるので、右按分の方法として、本件土地および建物の東京都固定資産評価額の比率によつて算定したところ、土地が五、七八一、六〇〇円、建物が七、四一八、四〇〇円となり、これによると、建物の減価償却費は昭和四〇年度分五八、三六〇円、昭和四一年度二三一、四一六円となる(別表一ないし三)ので、原告の前示償却費の計算を昭和四〇年度分につき七、四〇〇円、昭和四一年度分につき二一、三六五円それぞれ否認した。

なお、地上権は法人税法二条二四号にいわゆる減価償却資産ではないから、これを土地の価額から除外して建物価額に含め、減価償却の対象とすることは許されないことを付言する。

第四、被告の主張に対する原告の認否および反論

一、被告が原告の確定申告に対し本件更正処分において被告主張のとおり加算または減算したことは認める。被告の右加算ないしは減算に対する認否は次のとおりである。

(一)  昭和三九年度の認定利息収入の加算七六四、四〇〇円を否認する。したがつて、当期は確定申告どおり七二三、二五四円の欠損である。

(二)  昭和四〇年度の加算分のうち、認定利息収入、減価償却超過額、土地価格計上もれ、特定公共用地買収損金算入否認ならびに減算の建物価格につきそれぞれ全額を否認し、その余を認める。したがつて、原告の認める加算額合計二、八二九、六〇〇円、減算額二、四六〇円となるので、差引加算額二、八二七、一四〇円となり、これを当期計上欠損額四、八一七、八八一円から控除すると一、九九〇、七四一円の欠損となる。

(三)  昭和四一年度の加算分のうち、認定利息収入二五三、三三〇円、減価償却超過額二一、三六五円、繰越欠損金控除額否認二、五七三、〇七〇円ならびに減算の未払事業税一五九、〇〇〇円をそれぞれ全額否認し、その余を認める。したがつて、原告の認める加算額合計八七二、〇〇〇円を当期申告所得額二、五七三、〇七〇円に加算すると、三、四四五、〇七〇円となるが、他方、繰越欠損金が昭和三九年度分七二三、二五四円、昭和四〇年度分一、九九〇、七四一円あるほか、昭和四一年度においても原告の否認する前記認定利息収入、減価償却超過額および未払事業税の合計四三二、六九五円はいずれも損金に算入すべきであるから、欠損額は合計三、一四七、六九〇円となり、同額を前記所得額三、四四五、〇七〇円より控除すると二九七、三八〇円となり、これが当期の課税所得額である。

二、認定利息に関する被告の主張(第三の二、(二))のうち、原告が増永昌平に対し昭和三九年二月一日金一〇、〇〇〇、〇〇〇円を交付したこと、そのころ同人が所有していた東京都千代田区四番町四番地の八の土地に抵当権を設定したこと、同土地には既に佐藤義光名義の借地権の登記が存し、鏑木他二名が同地上に建物を有して居住していたことは認めるが、右一〇、〇〇〇、〇〇〇円が原告の増永に対する貸付金である点は否認する。

原告は、増永との間に前記土地を原告が堅固な建物所有の目的で借受ける旨の契約を結び、その承諾料ないしは保証金として一〇、〇〇〇、〇〇〇円を提供したものである。しかし、その後、右土地には既に佐藤名義の借地権登記が存し、かつ、第三者らが居住していることが判明(いずれも不法占有)したので、原告ら関係者間で折衝した結果、右居住者らは円満立退くことに合意したものの、原告としては、万一同人らが原告の建築工事着手時期までに建物を収去しないため原告の土地使用が不能に帰した場合に生ずべき増永に対する前記一〇、〇〇〇、〇〇〇円の返還請求権を担保する方法として便宜上同額の消費貸借契約書を作成し、抵当権を設定したものである。

そこで、右消費貸借があくまでも形式上のものであることを確認する意味において、その契約書中に原告の増永に対する利息債権と土地利用上の損失補填債務とを相殺し、相互に支払関係はないものとする旨の条項を設けた。

三、特定公共用地買収損金算入について、被告主張の第三の二(三)1は認め、同項2(ア)のうち、東京都新宿区角筈三丁目一六六番地の三の土地が被告主張の建設省告示による東京都の事業認定地域内にあつた点は不知、その余の点は否認し、(イ)は否認し、(ウ)は認めるが、原告が野村はるに右建物を売却したのは、同人が原告会社の代表者の妻であるからこそ、地上建物を同人に売却しても原告が右土地を使用するにつき何らの支障とはならないものと判断したからである。

原告はもともと全国精薄児童援護福祉協会の役員である菊田より同協会が有する国鉄両国駅構内の土地三〇〇坪の借地権を一〇、〇〇〇、〇〇〇円で譲受けてアパートを建築し、貸室業を営む計画であつたところ、その借地権の確定が遅れたため、原告と菊田との間において、便宜的に右角筈の土地建物の所有権を菊田から原告に譲渡し、その後原告に対し右両国の土地の借地権に関する譲渡手続が終了次第、角筈の土地建物の所有権を菊田に返還する旨の合意が成立した。そこで、原告は菊田に一〇、三〇〇、〇〇〇円を支払つたが、のちに両国の土地の借地権は事実無根であることが判明したので、原告はやむなく右角筈の土地建物につき所有権取得登記を経由し、同所にビルを建設することにした。その後、右土地につき昭和四〇年二月下旬ころ東京都より公共用地として買収交渉がなされ、その際、東京都係員より買収に応じれば租税特別措置法の恩典を受けうることを初めて聞知したのであり、また、それまで同土地が都の事業計画決定ずみの地域内であることも知らなかつたし、菊田より教えられたこともなかつた。したがつて、右土地建物は租税特別措置法六五条の三にいわゆるたな卸資産には当らないものというべきであるから、同法条によりこれが買収代金を損金に算入することができるのである。

四、原告が昭和四〇年五月一日大野正子より東京都新宿区花園町三九番地の土地建物を一三、二〇〇、〇〇〇円で買受け、その減価償却費につき昭和四〇年度および昭和四一年度において被告主張のとおり帳簿処理したことは認めるが、その余は否認する。

その根拠は、昭和四〇年五月右花園町の土地の更地価格は坪当り約五〇〇、〇〇〇円であつたが、同地上に堅固な建物が存したので同建物の地上権価格を更地価格の七五%とし、土地の価格を残余の二五%としたもので、その計算は左記のとおりである。

土地 500,000×0.25×25坪6合=3,200,000円

建物 10,000,000円

この点に関する被告主張は実情を無視した不当なものである。

第五、証拠

一、原告 甲第一ないし第四号証、第五号証の一ないし三を提出。証人増永昌平、同野村十郎、同菊田静枝、同平木重雄、同佐藤義光、同小石勝則の各証言を援用。

乙第一号証の原本の存在および成立、第二号証、第三号証の一、二、第四号証の一ないし四、第七ないし第一〇号証、第一一号証の一、第一三号証の一、二の各成立を認め、その余の乙号各証の成立は不知。

二、被告 乙第一、第二号証、第三号証の一、二、第四号証の一ないし四、第五号証の一ないし三、第六ないし第一〇号証、第一一ないし第一三号証の各一、二、第一四号証の一ないし三を提出。証人小石勝則、同菊田静枝の各証言を援用。

甲第一ないし第四号証の成立、第五号証の一ないし三の原本の存在および成立を認める。

理由

第一、請求原因一項ならびに本件各更正処分において被告がその主張のごとく加算および減算をしたことは当事者間に争いがなく、右加算および減算のうち昭和四〇年度の損金計上役員賞与四〇、〇〇〇円、圧縮損二、五八九、六〇〇円、支払仲介料二〇〇、〇〇〇円の各否認による加算、未払事業税二、四六〇円の減算、昭和四一年度の賃貸料収入三七、〇〇〇円、仕入諸掛否認八三五、〇〇〇円を加算することについては原告も認めてこれを争わない。

第二、本件での争点は、(一)認定利息収入、(二)特定公共用地買収損金算入の否認、(三)減価償却超過額の三点であるので、以下に順次判断する。

一、認定利息収入の点について

(一)  原告と増永昌平との間に昭和三九年二月一日一〇、〇〇〇、〇〇〇円の授受が行なわれたことは当事者間に争いがなく、被告がこれを貸付金であると主張するのに対し、原告は借地の承諾料ないしは保証金であるとして争うが、成立に争いのない甲第一号証、乙第二号証、乙第三号証の一、二、乙第四号証の一ないし四、証人小石勝則の証言によつて成立を認めうる乙第五号証の一ないし三に証人増永昌平、同佐藤義光、同小石勝則、同野村十郎の各証言を総合すると次の事実が認められ、右認定を動かしうる証拠はない。

増永昌平は、昭和三四年一一月二日前田貢より東京都千代田区四番町四番地の八の土地を買受けるに当り、その資金として野村十郎より一〇、〇〇〇、〇〇〇円を借用していたが、原告は、増永より右土地を借受け同地上にマンションを建設して貸室業を経営しようと企画し、同人との間に昭和三九年二月一日左記要旨の契約を締結した。すなわち、

(1) 原告より増永に対し一〇、〇〇〇、〇〇〇円を貸付け、原告は同地上に五階建のビルを建設する。

(2) 原告の貸付金一〇、〇〇〇、〇〇〇円については、担保のため右土地に抵当権を設定し、原告においてビル建設開始と同時に、貸付金を保証金に切替える。

そして、右契約に基づき原告より増永に対し一〇、〇〇〇、〇〇〇円を交付し、前記土地の占有者らの明渡しがうまくゆかないで原告の使用が不可能となるような事態が生じた場合を考慮して、右一〇、〇〇〇、〇〇〇円の返還請求権を担保するため、右約旨どおり同土地に抵当権を設定した(抵当権設定の点は当事者間に争いがない。)。増永はこの金で野村十郎に対する前記借金を返済した。

ところで、本件四番町の土地には右契約当事より佐藤義光の借地権が登記されているうえに、鏑木、井筒、元宮の三名が各自家室を所有して居住していた(このことは当事者間に争いがない。)ため、同人らとの明渡しの折衝が重ねられたが結局失敗し、原告は同土地に所期のビルを建設することが不能に帰したので、増永は、原告に前記一〇、〇〇〇、〇〇〇円を返還しなければならなくなり、昭和四〇年二月四日この土地を野村はる(原告代表者の妻)に売却し、その代金より同年一〇月一日七、〇〇〇、〇〇〇円、昭和四一年九月一日三、〇〇〇、〇〇〇円を原告に返済した。

以上の事実に照すと、右一〇、〇〇〇、〇〇〇円は原告の増永に対する貸付金たる性質を有するものと認めるのが相当である。

(二)  前示各証拠に成立に争いのない甲第二号証を総合すると、原告会社では各決算書に右一〇、〇〇〇、〇〇〇円を増永に対する貸付金であるとして掲記し、増永より利息支払いの誓約書さえも差入れさせているから、特段の事情がないかぎり、原告は利息債権を取得したものと認めるべきところ、前示甲第一号証の契約書において、増永は原告に対して利息を支払わなければならないが、同時にこれによつて生ずる増永の損害を原告は負担しなければならないので、この支払関係は相殺により相互にないものとする旨の条項(一条の(三))があり、さらに、成立に争いのない甲第三号証によると、増永より原告に対し、前示契約書を検討したところ、利息を支払う必要がないので、先の誓約書は無効であり、利息支払いの請求にも応じかねる旨の内容証明郵便を発していることが認められ、証人増永昌平、同佐藤義光、同野村十郎の各証言は右契約条項を説明ふえんして、その契約の成立自体によつて増永は目的土地を他に貸したり抵当権を設定することができなくなるので、その限りにおいて同人は損害を被つており、この損害は原告が負担すべきものであるから、これと原告の利息債権とを相殺する趣旨であると述べているけれども、増永は原告に対してまだ目的土地の引渡しをしていなかつたのであるから、原告において土地使用の対価たる賃料ないしは賃料相当の損害金を負担しなければならない筋合いはなく、前記契約条項自体合理性に乏しいものというべきであり、また、増永の右内容証明郵便も本件更正処分(昭和四二年六月三〇日付)通知後になされたもので、その内容はたやすく信用できない。そして、他に右各認定に反する証拠はない。

(三)  右認定事実によると、原告は増永に対し前記貸付金の利息債権を有するというべきであり、その利息額は証人小石勝則の証言によると乙第五号証の一ないし三記載のとおりであつて、昭和三九年度に七六四、四〇〇円、昭和四〇年度に九四六、一五〇円、昭和四一年度に二五三、三三〇円であることが認められる。

二、特定公共用地買収損金算入の点について

(一)  この点に関する被告主張のうち第三の二(三)1については当事者間に争いがなく、問題は、原告が昭和三九年一二月一六日菊田静枝より譲り受けた東京都新宿区角筈三丁目一六六番地の三の土地が東京都に買収され、その代価の所得につき租税特別措置法六五条の三が適用されるかどうかにある。ところが、同法条はたな卸資産につきその適用を除外しているが、たな卸資産とは商品又は製品、半製品、仕掛品、主な材料、補助材料、消耗品で貯蔵されたものおよびこれに準ずるもの(法人税法二条二一号、同法施行令一〇条)を指称し、原告のように不動産業を営む法人においては自己の営業用に使用している土地は固定資産に属し、販売目的をもつて所有している土地等はたな卸資産に属するものと解される(財務諸表等の用語様式及び作成方法に関する規則(昭和三八年一一月二七日大蔵省令五九)、同取扱要領(同年一二月二八日蔵理九五八五)参照)。

(二)  成立に争いのない甲第四号証、乙第八ないし第一〇号証、乙第一一号証の一、乙第一三号証の一、二に証人菊田静枝の証言によつて成立を認めうる乙第六号証、証人菊田静枝、同平木重雄、同佐藤義光、同小石勝則、同野村十郎の各証言を総合すると、次の事実が認められ、これを動かしうる証拠はない。

原告代表者野村十郎は昭和三九年一〇月初めころ、菊田静枝および同人の依頼を受けた平木重雄より全国精薄児童援護福祉協会が近く取得予定の日本国有鉄道両国駅構内の土地二八二坪五合の借地権を譲渡したいとの申入れを受けたので、原告会社では検討のすえ、同借地権を代価一〇、三〇〇、〇〇〇円で譲受け、右土地上に貸室用のビルを建設することにし、ただ菊田が万一右借地権の譲渡を履行できない場合を考えて、同月九日同人との間に、その所有する前記角筈の土地建物を一〇、三〇〇、〇〇〇円で原告が買受け、菊田が同月末日までに一五〇坪、昭和四〇年二月末日までに一三二・五坪の各借地権譲渡を実行するのと引換えに原告は菊田に角筈の土地建物の所有権を返還すること、また、菊田が右期日までに前期借地権の譲渡を履行しないときは即時に原告に対し角筈の土地建物の所有権移転登記手続をすること等の約旨の契約を締結し、原告は右代価を支払つた。

ところが、全国精薄児童援護福祉協会が取得するはずであるという両国駅構内の借地権のことは全く架空なことが判明したため、原告は右約旨に従い、昭和三九年一二月一六日角筈の土地建物の所有権移転登記を了した。

他方、前記角筈の土地は、被告主張の建設省昭和三五年六月一五日付および昭和三七年六月一九日付各告示による東京都市計画新宿副都心計画ならびに同新宿副都心計画事業区域内に含まれ、国道二〇号線(甲州街道)の拡張工事区域に当るので、昭和三九年一〇月の東京オリンピック開催当時新宿区角筈三丁目付近は本件土地を含む一角が長さ二〇〇ないし三〇〇メートルに亘つて残されているのみで、その前後は既に工事が完了し、一般人が見ても一目で右工事未完成部分が道路拡張予定地であることが推認できる状態であつた。そして、原告代表者野村十郎は、前記契約にあたり、菊田より本件角筈の土地建物が東京都より買収になるのでその代金から右融資金の返済をする旨を聞かされており、現場もそのころ訪ねて見分している。しかも、原告はその地上建物を買得後何ら事業用等に使用することなく僅か一週間後の同月二三日野村はるに売却した。

(三)  右認定事実に原告が不動産業者であることを併せ考えると、原告は右角筈の土地の買受け当時同土地が東京都より買収予定であることを知悉していたものと推認されるから、原告がかかる近い将来公共用地として買収されるような土地を自己の事業用に供するため入手するはずがなく、むしろ転売の意図をもつて取得したものと認めるのが相当である。

そうすると、右角筈の土地は、租税特別措置法六五条の三にいわゆるたな卸資産に該当し、同法条の適用をみないのであるから、原告がその適用ありとして買収所得につき損金算入したのを被告が否認したのは正当である。

三、減価償却超過額の点について

原告が昭和四〇年五月一日大野正子より東京都新宿区花園町三九番地の土地と建物を一三、二〇〇、〇〇〇円で買受け、その減価償却費につき昭和四〇年度および昭和四一年度において被告主張のとおり帳簿処理したことは当事者間に争いがない。

その根拠として、原告は、同地上には建物が存するので、その場合に建物の地上権価額を更地価額の七五%と評価するのが一般であるから、土地の評価額は残余の二五%となり、取得時の価額一三、二〇〇、〇〇〇円中土地が三、二〇〇、〇〇〇円、建物が一〇、〇〇〇、〇〇〇円であると主張するけれども、地上権が法人税法二条二四号の減価償却資産に当らないこと明らかであるから、これを土地の価額から除外して建物の価額に含ませることにより減価償却の対象となすことは不当である。そして、本件のように土地と建物を一括取得し、各別の価額が不明のときは全体の価額をその取得時における土地および建物の各価額による比率によつて按分評価したうえそれぞれの減価償却費を算出するのが相当であつて、被告が右方法に従いその算出根拠として東京都固定資産評価を基準として右土地と建物の評価額をだし、それに基づき建物の減価償却費を昭和四〇年度が五八、三六〇円、昭和四一年度が二三一、四一六円としたのは合理性があり、被告が本件更正処分において右を上廻る原告の主張額、すなわち昭和四〇年度分七、四〇〇円、昭和四一年度分二一、三六五円をそれぞれ否認したのは正当である。

四、なお、原告は被告の昭和四一年度未払事業税による減算を争うが、これは昭和四〇年度分と同様に前年度に右認定のような所得がある以上当然事業税の納付義務が生ずることとなるので、その未払分は減算すべきものである。

第三、叙上の次第で、被告の本件各更正処分には原告主張の違法は認められないので、これが取消しを求める原告の本訴請求は理由がないから失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高津環 裁判官 牧山市治 裁判官 上田豊三)

別表一

土地建物評価額

〈省略〉

別表二

建物償却額(昭和四〇事業年度)

〈省略〉

別表三

建物償却額(昭和四一事業年度)

〈省略〉

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